注目すべき映画の日本公開が来春に決まった。『ロード・オブ・カオス(原題:LORDS OF CHAOS)』がそれだ。2021年3月26日に劇場公開を迎えるこの作品は、ブラック・メタル界の先駆者、メイヘムをめぐる実話をもとに制作されたもので、物語の舞台となっているのは1980年代末から1990年代前半にかけてのノルウェーの首都オスロ。メイヘム周辺の歴史はメンバーの自殺、教会連続放火、バンドの首謀者がメンバーにより殺害されるといった数々の凶悪事件により血なまぐさく彩られている。そうした正気の沙汰とは思えないエピソードの数々は2009年に日本語版が刊行されている『ブラック・メタルの血塗られた歴史』という書籍の中にも記されているが、この作品はまさに同書のいちばん肝となる部分が映像化されたかのような成り立ちになっている。
しかもこの映画の監督を務めているのはジョナス・アカーランド(正式な読みはヨーナス・オーケルンド)。ブラック・メタルの創始者的存在のひとつ、バソリーのドラマーだった人物だ。のちに映像制作を志すようになった彼は、1988年にミュージック・ビデオの監督としてデビュー。マドンナやポール・マッカートニーとの仕事ではグラミー賞受賞歴もあり、2002年には『SPUN(スパン)』で映画監督デビューを果たしている。ちょうどこの『ロード・オブ・カオス』の撮影中にメタリカのラーズ・ウルリッヒからの依頼を受け、『ハードワイアード…トゥ・セルフ・ディストラクト』(2016年)の収録曲のひとつである「マンアンカインド」のクリップ制作を担当。メタリカの面々ではなく、この映画のキャストによる演奏シーンなどをもとに構成されたその大胆な映像は、ファンに驚きと衝撃をもたらすことになった。
当然ながらこの映画は、ドキュメンタリー作品ではなく、実話に基づいた物語を俳優たちが演じているものであり、そうした意味においては『ボヘミアン・ラプソディ』などにも通ずるところがある。もちろん作品としての性質には大きな違いがあるが、“真の自分の探求”といった意味においては重なる部分もあるといえそうだ。しかも同作においてクイーンを演じた俳優たちのたたずまいのリアルさが重要なポイントとなっていたのと同様のことが、この作品にも当て嵌まる。ちなみにユーロニモスを演じているのは、『ホーム・アローン』シリーズでお馴染みのマコーレー・カルキンの実弟にあたるロリー・カルキン。そして、自ら命を絶ったヴォーカリストのデッドを演じているのはジャック・キルマーだ。ジャックは最近では、オジー・オズボーンの“アンダー・ザ・グレイヴヤード”のビデオ・クリップで若き日のオジーを演じている人物だが、彼の父親は、かつてザ・ドアーズの伝記映画でジム・モリソン役を務めていたヴァル・キルマー。こうした巡り合わせにも興味深いものがある。
この『ロード・オブ・カオス』については、まだまだ書きたいことがたくさんあるのだが、まだ映画自体の公開までには少しばかり時間があるので、今回はこのあたりまでにとどめておくことにしたい。筆者自身、ブラック・メタルに精通しているわけでもないのに『ブラック・メタルの血塗られた歴史』は一気に読んでしまったものだし、この映画に触れたことでいっそうの興味を抱くようになった。同時に、純粋さとは何か、邪道とはどういうことなのか、といったことについて考えさせられる部分もあるし、この物語は人の考え方、価値観にも影響をもたらし得るものかもしれない。2021年3月、狂気を超えた真実と向き合うその日を、楽しみにしていて欲しい。
文:増田勇一
『ロード・オブ・カオス』
2021年3月26日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかにてロードショー。以降順次公開。
◆『ロード・オブ・カオス』オフィシャルサイト
からの記事と詳細
https://ift.tt/34J3WgO
エンタメ
Bagikan Berita Ini
0 Response to "日本公開決定、ブラック・メタル界の実話を描いた『ロード・オブ・カオス』 - BARKS"
Post a Comment